都市の「繭」に響きわたる、外部ー風景ー今のアレゴリー
今や特段に言及する必要もないほどに工事中の風景それ自体が日常
景観の変化は、当然ながらサウンドスケープの破壊/創造とも一体となっている。私は、この街を訪れるたびに、その音風景の多様さと過剰さに驚かされるが、その一方で、だからこそ一瞬訪れる静寂に意識を捉えられることにもなる。重機が唸り、コンクリートが砕け、人いきれの群れが巨大なパルスとなる。嬌声とクラクション。ポップ音楽の洪水。そして、前触れもなく訪れる一瞬の――それが短ければ短いほどに鋭く感得される――静寂。街全体を大きな反響板として音が音に応え、静寂が口をすぼめて音を吸い取り、一瞬の後には新たな音が静寂を埋め尽くしていく。
私はいつも、そのようなサウンドスケープをくぐり抜けながら、センター街の奥へと身を沈め、WWW/WWW Xという音の繭へと還っていく。だとすればそこは、(よくあるクリシェのように)「都会のオアシス」なのか。――否、その中にこだまする音もまた、都市のサウンドスケープとは無関係ではいられない――というよりもむしろ、そのような音風景を、優れた音の審神者(さにわ)たちが、様々な仕方で「再演」する場であるほかないだろう。それがどんなに美的で、ステージという区画された場で上演される「パフォーマンス」であったとしても。反転してみれば、全く同じ理由でそれらの「音楽」は、外界のサウンドスケープのアレゴリーたらざるを得ないのである。
カネコアヤノ+本村拓磨とmaya ongakuの二組が相まみえる今回の企画は、まさしくそのような「パフォーマー」同士の邂逅の場として、多くの都市音楽生活者たちによってぜひとも目撃されるべき一夜だといえるだろう。
kenekoayano名義によるバンド編成など、昨今急速にその表現のチャンネルを増殖させつつあるカネコアヤノが、ゆうらん船、Hedigan's、NOT WONK等での活動で知られる盟友にして鬼才ベーシストの本村拓磨と組んだ前者は、これまでにごく限られた数しかライブを行っていないため、実際のところ、多くの観客にとっては未知数の存在といえるかもしれない(正直に述べれば、私自身にとってもそうだ)。しかし、本年の「森、道、市場」でのパフォーマンスの評判や、同じく今年3月にリリースされた同編成でのシングル「できるだけ/友達がいる」を耳にすれば、カネコ・本村両人にとってそれが明らかに新機軸を画する重要なプロジェクトであることがわかる。ベース+ギターという単純な加算の図式をはるかに超え、シンセサイザーやリズムマシンなどの鋭角的(かつ肉体的)な電子音と渾然一体となったそのサウンドは、まさにあのWWW Xの定評あるサウンドシステムによって一層大きな迫力とともに響きわたることだろう。
片やmaya ongakuは、国内外のツアーでの好評はもちろん、先日のFUJI ROCKでも素晴らしいパフォーマンスを行ったばかりなので、そのライブの魅力は折り紙付きだといえる。ここ数年は、シンセサイザーを用いてダンスミュージック的な律動へと接近するなど、ライブパフォーマーとして新たな境地を開拓し続けてきた彼らだが、一方で、「沈黙」をテーマの一つとする最新のアルバム『Nothing Space Music』では、生演奏の有機的なグルーヴ感覚をより研ぎ澄ませたサウンドをものにするなど、ここへ来てモードの変化を印象づけている。そうした変化を経て、WWW Xにおいてどのようなパフォーマンスを行ってくれるのか、今から期待が膨らむ。
上の諸作を耳にしてもらえれば分かる通り、両者のサウンド上の美学は、必ずしも大きく重なり合っているとは言えない。しかし、それでもなお重要な共通点があるのも確かだ。ひとつには、電子音と生楽器のサウンドを、リアルタイムの演奏操作を介しながら不可分な存在として重層的に生成・変化させていくという手法上の重なりがある。そしてまた、そのような機械的な律動を実装しつつも、あくまで「歌もの」としての外殻を取り払おうとはせず、むしろ、「反・歌もの」的な内圧の上昇によってかえって「声」の存在を前景化させるような、一種の転倒的な構造がある。更には、両者ともに、ごく一般的な意味での「ポップソング」という形式(例えば「A-B-サビ」的な構造)に対する基礎的な信頼を内在しながらも、より拡散的≒「脱ポップソング」的でモーダルな構造の中に浮かび上がるハーモニーを、ある種の再帰的な仕方で生成しようとする傾向が聞き取れる。その聞き心地は、どこか間歇的でありながらも、一方で、そこで鳴らされている音自体を反響板としながら、自らを取り囲むサウンドスケープを表象するかのような開放感に溢れている。わかりやすい表現でいえば、スケールが大きく、開かれているのだ。
テクノロジーと身体の輻湊を介して表象されるリズムの反復・輻湊。間歇的に現れては消えるハーモニーと静寂。それでもなおせり出てくる圧倒的な「人間」の息吹。明滅する今昔のポップミュージックの記号。つまり、少なくとも私にとって、両者の演奏は、私自身を包囲する渋谷という都市の稀有なサウンドスケープ体験――それは当然ながらただ「心地良い」だけではない――を、きわめて鋭敏な抽象化を経た形で、なおかつ大胆な仕方で表象しているように聴こえるのである。それはまさに、渋谷の中心に位置する「繭」の中で鳴らされることによって、すぐれてクリティカルな効果と美学的な共鳴を生む、語本来の意味を湛えた「ライブミュージック」といえるのではないか。私たちは、そのような「生きた音楽」を味わうために、何度でも「繭」へと還っていく。外部―風景―今と、私の身体を響き合わせるために。それが私たちにとって果たして「健全」なことなのかどうかは決してわからないが、少なくとも、そうしないではいられないのだ。
評論家/音楽ディレクター 柴崎祐二
カネコアヤノ+本村拓磨

シンガーソングライター。
ソロプロジェクト「カネコアヤノ」、バンド「kanekoayano」で音楽活動を行っている。
2016年に初の弾き語り作品『hug』、2017年に初のアナログレコード作品『群れたち』を発表。
2018年に発表したアルバム『祝祭』はCDショップ大賞2019入賞作品に選出し、翌年2019年発表アルバム『燦々』はCDショップ大賞2020大賞<青>を受賞。
2021年発表アルバム『よすが』はCDショップ大賞2021に入賞し、2023年発表アルバム『タオルケットは穏やかな』はCDショップ大賞2024に入賞。
2024年に共に活動をしていたサポートメンバーを正式バンドメンバーとして迎え、バンド「kanekoayano」としての活動をスタートし、2025年にバンド結成後、初のアルバム『石の糸』をリリース。
カネコアヤノ(ソロ活動)としては、2025年10月にCD/LP弾き語りアルバム『石の糸 ひとりでに』をリリース。
2026年3月に配信シングル『できるだけ/友達がいる』をリリース。
本公演には、本村拓磨(ゆうらん船,Hedigan's,NOT WONK)を迎えて出演予定。
maya ongaku

2021年、江ノ島の海辺の集落から生まれた園田努、高野諒大、池田抄英による3人組バンドmaya ongaku。
魂のルーツを超えたアーシーなサイケデリアを奏でる地元ミュージシャンの有象無象の集合体。その名の由来は、古代文明からではなく、視野の外にある想像上の景色を意味する新造語。「自然発生」と表現する、非生物から生物が生まれるとされる現象の集大成が<maya ongaku>の原点である。
2023年5月に1st album『Approach to Anima』をGuruguru BrainとBayon Productionよりリリースし11月にEU/UK TOUR、12月に国内TOURを行い成功をおさめる。
2024年8月にNew EP『Electronic Phantoms』を発表。8月にWWWとの共同企画 "rhythm echo noise"ではオランダからFelbmを招聘し開催。
2025年4月、初となるUS TOURを敢行し大成功を収める。またシアトルのYouTube動画コンテンツ「KEXP」にも出演を果たす。
6月にはEU/UK TOUR、8月にCHINA TOUR、9月に再びUS TOUR、10月にASIA TOURを成功させている。今年1月に公開したシングル「Maybe Psychic」のMVがSNSを中心に国内外で大きな話題となる。7月にFUJI ROCK FES'26出演し、8月に待望の2ndアルバムをリリースする。
これまで森道市場、FFKT、FUJI ROCK、朝霧JAM、FUJI&SUNなど多くの国内フェス、また韓国や中国のASIAフェスにも出演。
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