硬くて重い鋼鉄グルーヴを纏ったIDM、ダブ、テクノの再興。ASTMAによる鉧塊、第二回。渋谷の異層フロアWWWβにて。
変則、裏拍を軸にした非対称の躍動を主軸に据えた今回の鉧塊は、等倍だけでは読み解けない速度のレイヤーが空間を満たしていく。メインフロアは85から170へ跳躍するテンポを基調とし、轟音の重さと身体を引き裂く倍速の推進力が同時に襲い掛かる。一方ラウンジはダブライクな四つ打ちを軸に、煙たく包み込む揺らぎを深く沈殿させる。フロアごとに対照的な質量が呼応し、鉧塊の核はさらに重く、さらに濃度を増していく。
今回のアクトには、新宿SPACEを軸にアバンギャルドからダブへ傾倒を見せてきたarow、モジュラーシンセのAmbient×轟音作品が際立つベルリン帰りのInqapool、近年一段と注目を集めるRevirthからの重音IDM『Otolary EP』や、ノルウェーの名門Smalltown Supersoundでの怪作で知られる国産サウンド・デザイナーKoichi Shimizu。プラットフォームSYNTHASIAを主宰し、1周年の野外企画や自主EP『DOMAIN』を経て2025年の波に乗るソウル拠点のSIJIN。パンデミック以降の渋谷における再興刷新系テクノで際立つパーティーメイクが刺さるコレクティブENSITEより、波ある構成のミックスが特徴的なtnseei。アート文脈での国際的評価と、抽象〜グリッヂ、そして、踊る、とは別角度からのテクノ視点で作品を発表してきた高知出身の音楽家Yuki Matsumura。ベースからダブ、愉快に振れる射的ゾーンまで、悦の方向へと導く変幻自在の再生装置Zooey Loomer 1979。そして、多岐に渡るジャンルからの選別を通じ、日本のアンダーグラウンドにおけるベースミュージックが持つ本流の系譜を静かに形づくり、今も書き換え続ける真の職人100mado、そして主宰ASTMAが集結する。
90年代初頭、英国で産声を上げたIDM(Intelligent Dance Music)。その初期に宿していたインテリジェンスと、インダストリアルな轟音、そして相反するようで共存する(巷で流行っている(?)とは明らかに異質な)ダブのスモーキーな抱擁感。そこへ速度を倍化させる変則の高揚が重なり合う。そのすべてがフロアの中心へ流れ込み、鉧塊の名が示す重硬な質感は、また新たな姿を現すだろう。相なす要素で織りなす踊ることへの挑戦は空茫と表裏一体であり、もしかすると真価が届くのは足音が聞こえはじめる30s以降なのかもしれない。ただただ、静かな佇まいのまま、今の東京の中心で実現するという事実が、底の方でえも言われぬ羨望を呼び起こしてくる。ひっそりとした轟音の、パーティーたるふざけた挑戦。

