『Obscure Ride』から10年、WWWオープンから15年
現在と過去を融合させながらceroはその先を目指す
渋谷WWWでもWWWXでも、ceroのライブは何度も見てきた。でも、真っ先に思い出すのは、2011年12月25日に行なわれた、カクバリズム所属後の初ワンマン''Contempory Tokyo Cruise''だ。
ceroの人気曲のタイトルだが、実はこのライブの時点では、まだその曲は存在していなかった。正確にいうと、自作のラジオドラマ(!)を収録した来場者特典CD『Contempory Tokyo Cruise』に、テーマ曲として初代ドラマー柳智之のフリースタイルラップ(!)をのせたインスト・ヴァージョンが収録されていたのだった。ヤナと呼ばれ、仲間に愛された柳くんは、この年、ceroを脱退し、イラストレーターに専念する新たな道を歩み始めたばかりだった。
それだけではない、あの日のライブはceroにとってさまざまな意味での"船出"が散りばめられていた。2011年3月11日の東日本大震災の記憶がまだ生々しいなか、自分たちが心地よく暮らしていた街の機能が奪われた東京(帰宅困難や計画停電)を、彼らは"漂流する都市"としてとらえ、ライブのコンセプトにもそれを持ち込んだ。もともと映画館だったWWWの機能を活かして、ステージ背後のスクリーンには海の映像が映し出され、満員の客席の感情は方舟のように揺れた。
そうした演出も含め、あの夜のceroには、ひそかにアイデアを育んでいた"揺籠期"を終え、次なる"Cruise"に向かうバンドの成長期とも不思議にシンクロしていた。ceroのネクスト・ステップを示した重要な楽曲「Contempory Tokyo Cruise」や「My Lost City」が完成するのは、2012年に入ってからだった。
その後もceroは自分たちの節目におこなうイベントでは、''Contempory Tokyo Cruise''のタイトルを何回も使っている。"traffic"、"outdoors"、など、また他のイベントでも、その先に進み未知と交わる冒険という意味を持つワードを用いてきた。かつてこの場所(WWW)で試したことが、その後のceroを動かす出発点になったことは間違いないと思う。
2025年11月19日、シーンを大きく揺るがしたサード・アルバム『Obscure Ride』リリースから10年、そしてWWWオープン初日(2010年11月19日)からちょうど15年の節目の日。ceroがワンマン・ライブ"Obscure Adventures"をおこなう。『Obscure Ride』と、今年リリースした新曲「健忘者たち The Forgetful Adventures」とのミックスなのだそうだ。彼らのことだから、単なるアニバーサリー的な振り返りのライブにはならないだろう。過去と現在を融合させながら見果てぬ舳先を示すセンスに、今なおぼくたちは刺激され続けている。
リズム&ペンシル 松永良平
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