BADBADNOTGOODのアンサンブルはずっとシネマティックだ。それぞれの演奏の熱量やムード、その交わり方や重なり方の綿密さ、そして刺激的な展開。そのどれを取っても、常に何かしらの視覚的想像を掻き立てさせられるものがある。言うなれば、彼らは、優れた脚本を、卓越したアドリブセンスと間の取り方と、何より自然体で演じることのできる個性派役者に程近い。通算4作目となる最新アルバム『IV』においては、これまでライヴにサックスやギターでサポートとして参加していたマルチ奏者のLeland Whittyという名優が加わったことで、これまでも飽くなきジャンル/スタイルのクロスオーバーによって作り上げてきた世界観はますます深みを増し、彼らが言う「自分たちの中から自然と生まれるもの=オリジナル」にまた一歩近いたように思える。
そんな彼らの来日公演は、偶然にも、映画館の跡地を造り変えて誕生したWWW Xにて行われる。ライヴになると、作品中の世界観が、さらにフリーキーな音像へと変化するのもBADBADNOTGOODの唯一無二の魅力。熱い視線を交わしながら衝動のままに音を放つ4人の姿は実に爽快かつ圧倒的で、観ているこちらも妙な洒落っ気と横ノリ感覚は置いて高揚してしまい、さらにクライマックスには彼らと一緒に飛び跳ねたくなるような感情も湧き上がってくるだろう。
来日を目前に、これからヨーロッパで数公演行うというタイミングで、今年『IV』をリリースするまでにどのような成長と変化を遂げたのかを、ライヴでは盛り上げ系MCもこなすドラマーのAlexander Sowinskiが教えてくれた。なんとロンドン公演はソールドアウトになっているらしい。
ーーこんにちは! どこからこのインタヴューに応えてくれていますか?
Alexander Sowinski(以下、Alex):今ロンドンなんだよね。ちょうど今着いて、ロンドン公演があってから、その後ヨーロッパでいくつか公演が控えてるんだ。
ーートロントにBBNGのスタジオを開設したそうですが、今もトロントを本拠地にしているのは、やはりリラックスして過ごせるからなのでしょうか?
Alex:そう。ホームで作るって良いんだよね。ちょうどスタジオにするのに良さそうな防音されてる場所を見つけて、本当ラッキーだったよ。「Studio 69」って呼んでるんだけどね。音を探求したり、曲書いたり、ジャムしたり、ずっとそこで過ごしてるよ。
ーー最新作の『IV』にはトロント出身のシンガーソングライターのCharlotte Day Wilsonが参加していますが、トロントのアーティストたちのコミュニティとシーンは活発なのですか?
Alex:そうだね。トロントの音楽シーンはこの何年かですごく開かれたものになったし、そのおかげで若くて新しいアーティストが世界中を回ってショーを出来るようになったんじゃないかな。みんなお互いの作っている音楽に耳を傾けていて、クリエイティヴな土壌は広がってきているから、音楽だけではなく色んな所でみんなが一緒になって活動出来るようになってるね。
ーーいずれは、自分たちが得た制作やライヴでの経験をトロントのアーティストに対して還元したいという想いはありますか? 例えばStudio 69を若いミュージシャンに提供してレコーディングをサポートしたり、『IV』のクレジットによればMatt(Mattehw Tavares)がレコーディングとミキシングを行ったとのことなので、誰かの作品のプロデュースやレコーディングを手掛けたいとか。
Alex:Studio 69に関しては色んなアイディアを考えていて、もちろん他のアーティストやバンドのレコーディングもしたいね。僕らはほとんどの時間をリハーサル、作曲、レコーディングに費やしてるからさ。Mattが他のバンドのプロデュースやバンドをやりたいってことは話してるけど、僕らの大きい夢はBrian Wilsonのような立ち位置でヴォーカリストをプロデュースしたりレコーディングしたりすることなんだ。
ーー『IV』の制作にあたって、今回新たにテープなどのアナログの機材やヴィンテージ機材を使用したそうですが、そういったそれぞれに特徴やクセがある古い機材を用いて追い求めていたのはどういうサウンドだったのですか?
前作『III』の際には、Chester(Chester Hansen)は「60~70年代のレコードのような音にしたい」とおっしゃっていましたが。
Alex:数年前にGhostface Killahとの『Sour Soul』のレコーディングを始めた時にアナログ機材を導入したんだけど、夢にも思わなかったギターやドラムの音に辿り着けたんだ。Frank Dukesと〈Daptone Records〉のインハウス・エンジニアであるWayne Gordonが僕たちに全く新しいレコーディングを見せてくれて、虜になってしまったよ。『IV』に関しては、主にテープで録音して、ベース、ドラム、ライヴの即興的な要素を録ったトラックをPCにバウンス(各トラックをひとつのトラックにまとめる作業)してから、オーバーダブ(重ね録り)していたんだ。作曲やレコーディングのプロセスを変えるのは、同じフォーマットで音楽を作ることに飽きてしまわないように、クリエイティヴであり続けるためでもあるんだ。あと『IV』の音へのヴィジョンは、曲ごとに音への直感と楽器のパフォーマンスを大切にしていたね。
ーーそれぞれのパートを録り重ねて楽曲の構築をしている側面もありながら、やはり聴いていると目の前でライヴセッションが行われているようなまとまりと圧倒的な熱量が感じられるのは、アナログ機材でのレコーディングに関しての工夫を突き詰めた結果得られた効果なのでしょうか?
Alex:シンセサイザー、ストリング、ホーンは大好きで、曲ごとに色んなレイヤーを入れたんだけど、どのトラックも構築していく上では大きなプロセスだったよ。そういったデジタルのオーバーダブはフル・オーケストラのサウンドのセクションを作る時にたくさん使ったね。Leland(Leland Whitty)のヴィオラとウッドウィンドだけしか使ってないけど。あのアナログ・サウンドはMattのエンジニアリングとトリートメントのおかげだね。
ーーレコーディング機材のセッティングは頻繁に変えて実験しながら録ったのですか? 最もエキサイティングだった機材やセッティング/方法は何でしたか?
Alex:普段だとドラムとベースから始めて、その曲に最適なドラム全体のエネルギーを捕まえたくて、スネアやタムの音をマイクの位置を変えながら試して行く感じだね。"Speaking Gently"は4~6本のマイクを使っているけど、"In Your Eyes"では1本しか使っていないんだ。各ミックスでキーボードやそのレンジに合わせたベースの音色は曲作りの大きなプロセスだったよ。Chesterは1973 Gibson Grabberと1966 Gibson EB4-Lを切り替えたりしてね。シンセに関して言えば、パッチの組み方でどのコードが1番良くなるかっていうのを探すために延々といじってたよ。シンセはYamaha CS60、KORG Polysix、Yamaha CS30、Roland Juno-106と、あと他にいくつかのを今回のレコーディングでは使ったかな。
ーーSam HerringとCharlotte Day Wilsonのヴォーカルは、まるで優れたクラシックジャズのヴァイナルのような質感で録られているように感じました。ヴォーカルのレコーディングに関しては、どのようなイメージを持ってディレクションを進めたのでしょうか?
Alex:シンガーと一緒に制作できるのは本当に光栄だね! 彼らとヴォーカルのパフォーマンスに関してはそんなに話すこともしなかったし、コレボレーションもとても自然な流れで起きたことだから、レコーディングの時には2人とも好きなように歌っていたよ。
ーー例えば、今回の『IV』においてのKaytranadaやColin Stetsonなどのゲストアーティストとの制作をする際には、イメージの共有や方向性の話し合いはどのぐらい行っているんですか?
Alex:僕らは何の打ち合わせもしてないし、始めから自然に出来上がって行くのが好きなやり方なんだ!
ーー先ほども名前が出たFrank Dukes(Adam "Diesel" Feeney)と、Jerry Paperは、『IV』に「Spiritual Advisor」とクレジットされていていましたが、2人から受けたスピリチュアルな面でのアドバイスというのはどういうものだったのでしょうか? 特にFrank Dukesは、最近だとKanye WestやDrake、Young Thug、Travis Scott、Schoolboy Qといった名だたるラップ・アーティストの作品に参加していますよね。
Alex:彼らは仲の良い友達でさ、彼らの手掛けている音楽からはいつも良いインスピレーションを受けてるよ。
ーーセッションや試行錯誤を繰り返しながら、何十曲、何百曲と作って、さらに同じトラックでも何通りもの演奏方法を試しながら制作をしていると思うのですが、その中から『IV』のストーリーに収められた楽曲と収められなかった楽曲にはどういう違いがあるのですか?
Alex:レコーディング前にアイデアを貯めるために、まずiPhoneでよく録ってるんだけど。でもアイディアがありすぎて、自分たちで選んだカットを合わせるとどうなるかをよく分からずにアルバムを作らなきゃいけないことよくあるんだよね。だから、初めからストーリーや全部を繋げてくれるような音楽的な道筋も全く無かったね。だけど実際に作っていくと、自然と音とかフィーリングが全体的にまとまってくるんだよね。
ーーコードやテンポによって不穏でスリリングなムードを演出したり、その一方でスリルや不安をゆっくりとなだめていくような展開を作ったりしている楽曲やアルバムのことを、よく「シネマティックだ」と言われると思いますが、映画やドラマのシーンなど具体的なヴィジュアルのイメージを持って制作に臨んでいるのですか? 4人の間で常にシェアされている具体的なヴィジュアルのイメージはありますか?
Alex:ヴィジュアルのインスピレーションはもっと潜在意識的なものなんじゃないかな。映画は大好きだから色んなものを観てきたし、テレビドラマでも映画でも、名作と言われる作品のサウンドトラックもたくさん聴いてきたよ。ライブラリー・ミュージック(映画やCM、TV番組などの映像を引き立たせるための音楽)からの大きな影響もあるけど、音楽のイメージはおそらく個人で違った形で見えてるんじゃないかなと思うよ。
ーーあなたが思う、音楽の優れている映画は何ですか?
Alex:たくさんありすぎるよ! 『Blade Runner』、『Suspiria』、『Apocalypse Now(邦題:地獄の黙示録)』、『Star Wars』、『Shaft』、『2001: A Space Odyssey(邦題:2001年宇宙の旅)』......とかだね。
ーー現在のBBNGのスタイルを確立するにあたっては、例えばドラマティックかつスリリングでもあるような、優れた雰囲気を持っているオールドスクールのジャズやファンクを始めとする古き良き音楽に対して多大な敬意を払って参照しているということも重要なポイントになっていると思います。そういったリスペクトを持ちながらも、セッションや即興演奏でオリジナリティを生み出していくという作業は、時に困難なことでもあると思うのですが、BBNGはどのようにして乗り越えてきたのですか?
Alex:僕らの最後の目標はオリジナルな音楽を作ることで、色んな音楽からの影響があるところから始まるにせよ、結局は僕らのものにしていくからね。それはライヴでも同じで、曲によってインプロもたくさんやるけど、僕らのゴールはいつもオリジナルであることなんだ。何曲かはほとんどインプロから出来たものをアレンジして作っているし、僕らは自然発生していくことが好きだし、もっとインプロを組み込んでいきたいとも思ってるよ。
ーーライヴになるとまた即興性や自由度が高くなる印象なのですが、逆に、ライヴパーフォーマンスにおいて決められたルールなどはありますか?
Alex:僕らは自由に楽しくやりたいし、またそういう風に見せたいし、お客さんにもそのハッピーな感じが伝わって欲しいな。
ーーもしライヴイベントやフェスをBBNGがオーガナイズすることになったら、共演として呼びたいアーティストは誰ですか?
Alex:いっぱい呼びたい人がいすぎるから、1週間くらいのフェスティバルになることは間違いないね!
Interview with BADBADNOTGOOD (Alexander Sowinski)
Text & Interview: Hiromi Matsubara (HigherFrequency, SIGMAFAT)
Translation: Shimpei Kaiho